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『The Pride』からみるゲイカルチャーの変遷

~親愛なる吉良さんとスペシャル対談~

『The Pride』はゲイテーマを扱う作品です。
1958年と2008年(初演時)、2つの時代を生きる登場人物たちは、それぞれの時代背景の中で葛藤します。

僕(岩男)が主宰するユニットで2019年に上演した『COUPLES 冬のサボテン』もゲイテーマを扱う物語でした。僕は色んな角度から作品に向き合いたく、ゲイやLGBTQ +の当事者の方々と交流を交わしながら作品を立ち上げました。

その中で出会った俳優、青山吉良さん。
僕からみる吉良さんは、人としてとっても愛情深く、勇敢な方です。
今回『The Pride』に向き合うにあたり、「吉良さんと この作品について話したい!」という思いが爆発しましたので、ご自宅兼オフィスに突撃してまいりました。
吉良さん、改めて本当にありがとうございます。

【『The Pride』公演HP/チケット購入】


ー岩男

ご無沙汰してます。
急な押し掛けにお応えしてくださって、本当にありがとうございます。

ー吉良さん
いえいえ、こちらこそ。
この戯曲(The Pride)がちゃんと読めて本当によかったよ。ありがとう。

ー岩男
さっそく作品についてお話したいところなのですが、まず吉良さんについて少しお伝えしたいなとも思ってます。
吉良さんについて、また前回対談の様子をリンクしておきますね!

【2019年『COUPLES冬のサボテン』吉良さん対談】

ー岩男
最近はいかがお過ごしでしたか?

ー吉良さん
この前「自民会合で配布された同性愛差別的な冊子についてのデモ」に参加しました。

ー岩男
アクティブで素敵です。

ー吉良さん
流石にビックリしたよね。
国によって色んな違いはあれど、いわゆる先進国と言われる国の中ではかなりLGBTQ +に関する理解度は上がっていると感じてたけど、、現代でこんな事が起きるの?って衝撃だった。「病気である」とか「治療が必要だ」とか、ほんと冗談じゃない。

ー岩男
僕も驚きました。『The Pride』の稽古場でも話題になりました。

ー吉良さん
最初は「何バカなこと言ってんの?」って、それで済ませようとも思ったけど、ここでちゃんと「おかしい」って声を上げないと、問題がなかったことになっちゃうと思って。
調べたら若い人が声を上げてデモを企画してたから「僕もいかなきゃ」って。そこには沢山人がいて、それは嬉しかった。
でもこういう冊子が配られるような事態が起こる世の中だっていうこと、自分が置かれている場所についても明確に分かった。
“そうじゃない”ことには「そうじゃない」ってちゃんと声を上げること、当事者としてはとても大切なことなんです。
僕なんかはもう考えがハッキリしてるからまだ大丈夫だけど、こういう事が起きて若い子が変な先入観を持って悩んでほしくないなって。

ー岩男
吉良さんの思いやり、行動力はお話を聞くたびに驚かされます。見習わなくてはです。

では早速『The Pride』を読んだ第一印象を聞かせてください。

ー吉良さん
まず思ったのは、演劇的な構造が巧い!てこと。
単純な”過去”と”現在”ていう分け方だけじゃなく、人間ドラマを交差させながら描くのがすごい。
あと、風俗的な部分もよく描けてる。病院のシーンとかも凄いよね。

ー岩男
吉良さんにそう言ってもらえると嬉しいです!

ー吉良さん
僕が若かったらオリヴァー(岩男の役)がやりたかった!

ー岩男
ええ!マズいです、役取られないよう稽古頑張らないと、、
それか、side-Cキャストでお待ちしてます。笑

この作品には1958年と2008年 ふたつの時代が描かれます。
2つの時代の変化を吉良さんはどう見ますか?

ー吉良さん
大きな違いは”情報の量”だとおもう。
昔は情報がないから、とにかくアンテナを張ってた。
中学の頃、三島由紀夫の小説を読んで「自分とおんなじだ!」って驚いたりして。

ー岩男
『仮面の告白』ですね!

ー吉良さん
若い頃はクローゼット(秘密)だったので、ゲイ雑誌の『薔薇族』(1971~)ができた時も、顔がバレてる地元の本屋では買えず、わざわざ東京まで買いに行ったもんです。もう手に取っただけで大興奮!可愛いもんでした。

ー岩男
この作品が描く1958年と2008年、その50年の間に、ゲイカルチャーにとって大きな存在「エイズ」があります。そこにあまり触れていないあたりも、この作品の面白さや狙いを感じるのですが。

ー吉良さん
エイズ禍は僕らにとても大きな影響を与えました。
「ゲイの病気」と言われて僕も真っ先に検査した。
知り合いも何人か亡くなったりして、ひどくショックを受けました。

ー岩男
僕も知識が乏しかったので、『エンジェルス・イン・アメリカ』や『ノーマルハート』などエイズに関して描かれている作品を通して色々リサーチしました。
コロナも同じですが、先入観やイメージに捉われて恐れを抱くと、間違った対策をしてしまったり、差別や偏見に繋がってしまいますよね。避けなければならないことです。
<全国HIV/エイズ・性感染症 検査・相談窓口情報サイト>


ー吉良さん
ただ、そのエイズ禍を経てゲイコミュニティが団結したり、今言った『エンジェルス・イン・アメリカ』や他にも良質な作品が生まれることによって、社会的に認知されるキッカケになったと思います。

ー岩男
闘いの歴史でもありますね。『The Pride』にも描かれています。

ー吉良さん
90年代に日本でも「ゲイブーム」が起こり、女性誌や色々な雑誌で「ゲイについての特集」が組まれ、僕も遅ればせながら二丁目デビューをしました。

ー岩男
雑誌の辺りも劇中にバッチリ描かれてますね!

ー吉良さん
その頃聞いた話で印象深い話があって。
ゲイのサラリーマンが諸事情により、どうしても結婚しなければならなくなり、とにかく精力的に元気なうちに何とか子供をつくり、子供ができたらあとはほったらかしと。どこか悪ぶって話してくれました。
僕は相手の女の人を何だと思っているんだ、とムカつくのと同時に、悲しくなってきました。
ゲイに対してオープンになってきた90年代はじめ。そのギャップに改めて闘いはこれからなんだと感じました。

ー岩男
僕もアパレルを通してビジネスと向き合う事がありますが、企業は時にとても乱暴に”ブーム”を作り出しますよね。資本主義社会において仕方ないことでもありますが、その事業の根っこに”思いやり”をどこまで持てるか、そこが大切だなと感じています。

次にお聞きしたいのは、現代におけるゲイカルチャーのあり方です。
2008年から現代においての大きな変化は「スマホ/SNSの登場」かと思います。

ー岩男
まず僕からお聞きしたい事があります。
今回『The Pride』のオファーをいただいた時、まず台本を読んで「すっごく面白い!演りたい!」と思いました。
しかしそれと同時に、ハリウッドなどでは「作品におけるマイノリティの役は当事者が演じるべき」という流れがしっかり出来上がりつつあって。僕が敬愛するスター俳優たちもその事についてアップデートしています。
その中で、異性愛者である僕がゲイの”オリヴァー”という役を演じていいものか、本当に悩みました。
そこで僕なりに、今の日本の演劇界やエンタメ界のあり方、今回のカンパニーのことなどを踏まえて色々考えた上で、「このカンパニーなら作品としっかり向き合いながら上演できる。」と思いお受けしました。

3年前、『COUPLES 冬のサボテン』でも吉良さんとこのようなお話をしましたが、当事者でない人がマイノリティの人物を演じることをどう思いますか?

ー吉良さん
僕は当事者でない人が演じる魅力もあると思う。間違っててもいいじゃない。大丈夫、間違ってたら僕らがギャーギャー騒いでやるから。笑

ー岩男
嬉しいような怖いような、、吉良さんらしい。素敵すぎます。

ー吉良さん
大切なのは「本気で向き合おうとしてくれているか」かな。
僕も『The Pride』の現場はすごく信頼しているよ。僕も昔に共演したヒロさん(演出/出演:井上裕朗)みたいに意識高い人がリードしてくれるわけだし。
当事者でない人たちが作品を立ち上げることが、時に「当事者を理解してもらえるチャンス」でもあると僕は思ってる。
「多様性、多様性」ってブームにして一括りにするんじゃなくて、岩男くんみたいに良い意味でしっかり距離を感じ取ってくれることも大切。その上で向き合ってくれるのは素晴らしいと思う。

ー岩男
ありがとうございます。


(↑「COUPLES冬のサボテン」岩男海史:花ちゃん)

ー吉良さん
ここ数年「BL作品」がとても増えてるでしょ。もちろん作品を楽しむことは大切だけど、そうやって「BL」ていうキャッチーな表現でまとめることで、複雑な部分が見えなくなってしまうこともある。僕たちは色んな種類の生きづらさを抱えているのだけど、そこを見ないことにして「BLっていいよね」っていう風潮が出来上がってることには疑問を感じるね。

ー岩男
単純な質問ですが、吉良さんにとって、時代を経るにつれて”生きやすい世の中”になっていると思いますか?

ー吉良
それは間違いなく、”なっている”と思う。けれどもまだ問題は無くならない。
やっぱり人間は「知らないモノに対する摩擦」というものが強いのかな。人種問題しかり。
特にこの国は「島国根性」が邪魔していると思う。なかなか根深いよね。

ー岩男
そうですね、僕も日本における同調圧力はちょっと凄まじいなと感じています。
自分で気づけているコトもあれば、それよりもっと根深くて無意識に縛り付けられていることも。

些細なコトですが『The Pride』の稽古場では「させていただく」とか「おっしゃった」という言葉をNGワードにしてるんです。特に俳優の僕たちは「出演させていただく」とかよく使うんですけど、それって日本の俳優に歴々刷り込まれてきた「俳優はへり下るべき」みたいなものがあるんじゃないかな?って。実際、社会生活の上では”その方が楽”だったりもします。
でも、皆んなの想像力を交わして豊かな作品を立ち上げることを目指すこの稽古場に限っては、フラットに関わろうよって。リスペクトは心根にあれば問題ありませんし。おかげでとても滑らかな人間関係を築けています。

では最後に、あらためて『The Pride』の魅力について伺いたいと思います。
たくさんの方に観ていただきたいので「どういう人に届いてほしいか?」などもお聞きしたいです。

ー吉良さん
もちろんこの作品は、幅広い人の胸に刺さる物語だと思う。
ゲイやLGBTQ +の人でなくても”他人ごと”ではない物語です。歳をとるごとにわかってくるけど、「人に言えない自分らしさ」は少なからず誰にだってあります。

そしてそのうえで僕は、是非LGBTQ +の人たちにこの作品を観てほしい。
この物語は「自分というものをどう認識していくか?」という話だと僕は思うんです。

僕に関して言えば、自分がマイノリティだとはっきり認識していたり主張することで、より明確に世の中や多数派の考え方が見えてくる。
僕は自分がゲイで良かったと思っているよ。もちろん苦しいこともあるけどね。

今の世の中には”わからないこと”に対して「わからない」って言う勇気が必要だと思う。「多様性多様性」って叫ぶだけじゃなくてね。
この『The Pride』にはまさにソレが描かれている。
社会的な背景をしっかり描いた上で、演劇的な面白さも満載。ホントに豊かな作品だと思うよ。

ー岩男
最高のお言葉です。。

ー吉良さん
なにより、作家さん(アレクシ・ケイ・キャンベル)に感心しちゃった。
自分の感じてきたことに、こんなにしっかり向き合って世の中に訴えてる。僕も見習わなきゃって思いました。

ー岩男
僕は吉良さんを見習わなくてはです。本当に素敵なお話をありがとうございました。

ー吉良さん
記事に書けない話もたくさんあったでしょ。笑

ー岩男
はい。笑
僕の中にとどめておきます。それも含めて最高の時間でした。

ー吉良さん
本番観に行くね、楽しみにしてます。

ー岩男
オリヴァー役、取られちゃわないように頑張ります。笑
本当にありがとうございました!!

(↓吉良さんオフィス、僕が大好きなポスター。素敵。)

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