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よしおって何だよ!?【中西良介インタビュー】

第1回公演に向けて本格始動。“まずは私たちを知ってほしい”

今回は本格始動にあたり、まずは私たちを知っていただこうと、セルフインタビューを開催しました。
今回は、アヴァンギャルド×コンプレックスの提唱者、『よしお』へのインタビューです。


アヴァンギャルド×コンプレックス
『演劇は人を繋ぐ』を理念に様々なコミュニティや地域と関わりながら演劇の可能性を模索することを目指す演劇団体。新国立劇場演劇研修所第10期生の中の4人により設立。演劇の枠を超えた表現を得意とする。
第一回公演“LOVE×コンプレックス”『COUPLES 冬のサボテン』
2019年10月31日~11月4日@下北沢小劇場 楽園

原点は明治大学の「シェイクスピアプロジェクト」
世界一有名な「中西」になる
アヴァンギャルドの立ち上げを企画する
演劇の楽しさは「60歳」から

原点は明治大学の「シェイクスピアプロジェクト」

▲第10回明治大学シェイクスピアプロジェクト「ヘンリー四世」


Q.そもそもどうして演劇をやり始めたのか?そのきっかけを教えてください

小学二年生の時の学芸会「ピノキオ」で主役のピノキオをやったことです。
元から目立ちたがりで、小学校一年の頃から運動会の開会宣言をやったりしていました。当時の演劇の記憶はほとんどないのですが、小学四年生の時の学芸会「走れメロス」で、他の子が演技でつまづいている時に、先生に呼ばれて、その子のために僕が実演するという機会があった。その時に「あ、自分、天才だな」と思った(笑)
その後は中学受験をして、大学に入るまでは自分が演劇をやるという機会がなかった。

Q.大学では、演劇活動はしていたのですか?

最初、実は演劇と距離を置いていました。セリフが覚えられないと思って。
なので、まさかのテニスサークルに入りました。その最初の飲み会で近くにいた先輩に「お前、小島よしおに似てるな。」って言われて、そこからあだ名が「よしおになりましたね(笑)

しかし、やはり演劇には関わりたいなと思って明治大学シェイクスピアプロジェクトというものに大学二年の時から参加しました。

シェイクスピアプロジェクトというのは、大学のバックアップの下、演出も美術も音響照明、翻訳も全て学生がやるプロジェクトです。今では4,000人近い観客を毎年動員しています。

学部自体は文学部演劇学専攻にいたから、周りには演劇をやってる人がたくさんいて、その中にはプロジェクトのプロデューサーもいました。その子に腕を引っ張られてオーディションに連れて行かれ、いきなり演出家の前でお芝居をして、メインキャストに選ばれた。それがきっかけで演劇にのめり込んでいきました。

二年次は「冬物語」、三年次は「お気に召すまま」、四年次は「ヘンリー四世」を上演しました。

演劇サークルとは違い、全くの演技未経験者から小さい頃から演劇に携わってきた人まで様々な人が稽古場に同居していたので、例えば上演に向けてのモチベーションがそれぞれ違ったり、共通言語がなかったりするので、そのすり合わせ作業に毎年苦労していた思い出があります。けど学年が上がっていくにつれて、「シェイクスピアプロジェクトにはこれが付きものよね」といった感じで、そんな不都合さが慣れっこになり、今ではそれが懐かしい良き思い出になっています。なんだかんだ青春だったんだなぁ(笑)

また、自分のもう一つの肩書である翻訳家もここにルーツがある感じがしますね。
シェイクスピアプロジェクトには学生翻訳チームがあって、学生がシェイクスピアを翻訳している姿を目の当たりにしてたから、学生にできて自分にできないはずがないと思って、翻訳を始めました。プロジェクトの稽古場に翻訳チームの人がよく来てくれて、俳優として「ここの翻訳が分からないんだけど」とか常に質問できる環境にあったから、翻訳というものが身近にありました。

そして、僕はもう一つ、Triglavという団体の主宰をしています。

明治大学シェイクスピアプロジェクトで出会って、学生時代にずっと一緒に作品を作ってきた同期の演出家と女優の3人で立ち上げた団体で、演出家(新井ひかる)・俳優、翻訳(中西良介)・制作者(菅野友美)で構成されてます。

旗揚げ公演は2018年6月。ハロルド・ピンターの「The Collection」という作品を僕の新訳で上演。第二回公演は旗揚げ公演からわずか半年後の同年12月。現代のシェイクスピア マーティン・マクドナーの「THE PILLOWMAN」を新訳上演しました。

演出家 新井ひかるに関して、僕はものすごく信頼していて、彼女のなど空間に対する感覚は非常に鋭いと思っている。もちろんこれは僕自身にも言えることだけど、ひかるにはもっと外の世界を見て、もっと勉強してもらえたら、次世代の日本演劇界を支える演出家になれる素養があると思っています。なので、Triglavの活動にも注目してもらえたら本当に嬉しいです。もちろん第三回公演も動き始めてます。

男だらけで、俳優を主戦場とする人間しかいないアヴァンギャルド×コンプレックス、そして女性二人に囲まれ、それぞれが違う立場を持ったTriglav、チーム構成の差別化ができているのが面白い。しかも僕にとっては作品づくりのホームが二つあるってことなので、それはもの凄く心強いですね。

世界一有名な「中西」になる

 

▲新国立劇場演劇研修所10期修了公演「MOTHER-君わらひたまふことなかれ」

 

Q.新国に入ったきっかけは?

明治大学ということで、周りには普通に就活する人もいたのですが、就活は全くやってなかったし、する気も全くなかったです。というより、就職したいと思うような企業が一個もなく、演劇が一番楽しい道だと思ったんです。新国(新国立劇場演劇研修所)に入ったのは、プロジェクトに参加していた先輩が何人か新国に入っていて、そういう先輩たちが道筋を作ってくれたというのもありました。

新国に入ると、ダンスとか日本舞踊とかやったことがない分野に挑戦しなきゃいけなくて、身体が不器用だから、その分、周りと比べて劣ってるなって思っていました。でも演技に関しては(周りと比べて)トントンだなと思っていました。

とにかく身体がコンプレックスという中、新国に入って最初に訪れた試練は、様々な分野で活躍されている女優 高泉淳子さんのワークショップでした。
高泉さんのワークショップではウォーミングアップに身体起床というものが取り入れられています。様々な身体的なエクササイズの中でひたすら身体の軸を意識し、音楽にノリながら、動くというものです。
僕の場合、「まず軸って何?」という状態でした。そんな状態で身体起床に臨んでもうまくいくはずがなく。その中でも特に、身体の軸はずらさずに首だけを左右に動かすというもの、イメージ的にはインド人が頭の上で手を組んでナマステ〜ってやってるイメージなんだけど、周りの人が普通にやっている中でそれが全くできなかった。それが本当に悔しくて、高泉さんのワークショップの期間中、空いてる時間にはひたすら練習して、なんとか首が動かせるようになりました。でもそれが何かに生きたかと言われたら、正直分からないですけど。

でも小さい時から本当に負けず嫌いだったんです。小学校低学年の時に友達の家に遊びに行って、野球ゲームで負けて、その瞬間にゲーム機のリセットボタンを押してしまったくらい負けを認められなかった。それで親に怒られた(笑)

とにかく一番になりたいという気持ちが大きいんです。
これは大学の頃からずっと言ってるんだけど、中西界でナンバーワンになりたいと思っています。世界で一番にはなれるのはおこがましいですが、中西界なら行けるんじゃないかと(笑)
検索とかでも自分の名前が一番最初に来て欲しい。ビッグな存在になれればと思っています。

アヴァンギャルドの立ち上げを企画する


アヴァンギャルド立ち上げのインタビューで話した通り、「やっぱりあのメンバー(研修所同期男5人)で芝居したい」と言う思いが強くなりました。

メンバーに対して圧倒的な信頼感がある。これは漠然としたものではなくて、僕たちは新国立劇場という場所で三年間しっかり演劇の勉強をしました。この三年間の蓄積は、経験してない人には絶対に分からない努力と苦労があって、そこに疑いの余地はない。ここにいるメンバーは、プロの俳優として圧倒的な準備をしてから演劇と向き合うように癖付いてる。それは日常生活においてもだし、戯曲の読解にしてもそう。俳優として、どうしたら豊かな人間になれるかということを考えています。
そして、アヴァンギャルド×コンプレックスを立ち上げた時に、この団体を“負けさせたくない”ってものすごく思ったんです。これが不思議なんだけど、本来何にでも一番になりたいという想いがあるのですが、アヴァンギャルドのためなら自分が負けてもいいと思ってます。アヴァンギャルドが何かしらの形で売れてくれればそれでいい。だからこの団体に関してはものすごく献身的になれている自分がいる。

僕の野望としては、早く「5人目」のアヴァンギャルドメンバーと合流をしたい。でもそのためには団体としてちゃんと段階を踏んでいく必要があると思うし、相手方を納得させるための結果が必要。これが僕にとっては一番現実的で、一番遠いところにある目標だと思う。この目標を達成しようとすれば、自ずと結果がついてくるんじゃないかと思います。

Q.他のメンバーから見たよしおはどうですか?

直人:よしおは刺激が強い(笑)彼の持つ“自由さ”、自由であることをアイデンティティとして掲げている姿が、最初の頃は受け入れられないこともあった。必ずしも自由であることが正義じゃないって。
でもよしおは、自由であるために何かしらの代償を払っていて、それが分かってきてからは自分自身もどうしたら自由になれるのかを考えるようになって、よしおに対する疑問もいつの間にか消えてた。
よしおの一番の強みである“自由さ”“奇抜さ”を残したまま、観客の見やすい形に加工できたら、観客ももっと受け入れてくれるんじゃないかと思う。よしおも言ってたけど、身体性の不器用さが目に見えてしまうと観客の意識がそっちに向いてしまう。そこをうまく調節して、自分のものにできたら強いなって思う。

よしお:そこが売れないところなんでしょうねえ(笑)

演劇の楽しさは「60歳」から

 

▲「冬のサボテン」の稽古風景。そのための役作りに妥協はない。

 

Q.今後の活動について教えてください

まず自分が目指したいあり方として、演劇においてプロでありたいなと思っています。
自分の中でプロとは、圧倒的な準備をすること。戯曲をいかに読むか、その役がどんな人間なのか、どういう生活をしているのか。僕たちが新国で蓄積した三年間というのは、その準備をするための三年間と言っても過言ではないと思う。戯曲のことだけじゃなく、自分がどういう人間で、どう社会と向きあっていくのかということも学びました。結局はそれが全て戯曲と向き合う時の姿勢につながっていると思ってます。

実際、今は冬のサボテンに向けて、普段着を役の人物が着そうな服に変えて、その役のリズムで街を歩いたりしてます。そうすると面白いことに周りの視線がものすごい気になってくる。そうするとスッピンで街中を歩くという行為がものすごく恥ずかしいんだってことに気づくんです。なので、その足で100円ショップに行って、メイク用品を買いあさりました(笑)

だけど今、「演劇って楽しい?」と聞かれたら、楽しいとはとても言えない。

自分も研修所3年目、修了まで残り数ヶ月というところまでは「演劇って楽しくあるべきものだし、楽しくなかったら続けられるわけがない」と思ってました。
でも修了公演の稽古中、演出の宮田慶子さんにこう言われたのです。

「よしお〜、演劇の楽しさはそんなとこに無いぞ。演劇の楽しさがわかるのは60歳になってからだ

60歳ってあと30年は楽しくないってことですよ!酷い話ですよね(笑)
でも、そう言われて僕はものすごく納得してしまったんです。僕らの“楽しい”なんて、世間にとっては大したことじゃ無い。作品がどうなのか、役がどうなのかということの方がよっぽど外に向いている、観客にベクトルが向いている。そして本番を経て、お客さまに良い声を頂けて、それでやっと充実感を得られる。

まあ、60歳になった時の演劇の楽しさ充実感というものにはもの凄く期待してます。

Q.最後に「冬のサボテン」への意気込みを聞かせてください!

「冬のサボテン」は非常にハードルの高い作品。どの役もセクシャルマイノリティという特徴を持っていて、僕たちの普段の生活と戯曲の世界は現状かなり離れたところにある。だから役作りに際して妥協が生まれやすい作品だと思っている。演劇のみならずエンターテイメントの世界において“オカマ”というキャラクターは色物として描かれてしまうことが多々あるし、俳優が演じる時にそういう低俗なところに陥りがちになってしまう。だから僕は、演じる役の生活をちゃんと観客に差し向けたい。きっと共感してもらえる作品になると思う。

最近の稽古で撮ってもらった写真と本番直前の僕の顔はだいぶ変わってると思うよ(笑)

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