アヴァン×トリップ〜二度目の岐阜県可児市編〜
まずお話せねばならぬ事があるとすれば、「COUPLES 冬のサボテン」が無事に終幕した事でしょう。
クラウドファンディングや様々な挑戦に快くお力を貸してくださった皆様に本当に感謝申し上げます。ありがとうございました!
もちろんその振り返りもどこかでやりたいのですが、ここは順番に、最近の出来事を整理したいと思います。
実は「COUPLES 冬のサボテン」の稽古期間中、3泊4日(台風の影響で1泊延びた)のスケジュールで岐阜県可児市に訪れていたのです。
可児市に訪れたのは一年ぶり二度目!前回は東京から約300キロの道のりを3日かけて自転車で訪れましたが、今回はさすがに新幹線とローカル線を使っての上陸です!
去年は西川信廣氏演出の舞台「移動」(作:別役実)の演出助手として、約一ヶ月、可児に滞在して、演劇を創作するという貴重な体験をさせていただきました。
その時から可児市文化創造センター(ala)という劇場が地域のコミュニティを創造し、自然と人が集まるような環境になっていた事に感銘を受け、いつか自分も俳優としてこの劇場に立ちたい、創作したいと思うようになっていました。
今回、訪れたのはalaが主催した企画「ala×alra 若き演劇人のためのシアター・キャンプ」に参加するためです。
alra(アルラ)は、英国南部のロンドンと北部のウィガン(マンチェスターの近郊)に拠点を置く、<シェイクスピアの国>を代表するドラマスクールの一つです。
https://www.kpac.or.jp/event/detail_967.htmlより
1979年に創設され、舞台上演のほか、映画、テレビ、ラジオなどあらゆるメディアを網羅した幅広い演技・演出トレーニングを、英国において最初に提供したドラマスクールとして有名で、2013年からは、ロンドンにあるセントメリーズ大学と提携して、演技・演出のBA(学士号)およびMA(修士号)の国家資格を授与するなど、多くの演劇プロフェッショナルを世に輩出しています。
新国立劇場演劇研修所で教えられているワークの多くが英国仕込みであり、修了してから約三年、アウトプットする機会は増えたものの、インプットする機会がめっきり減ってしまったので、これは良いと思い、参加を思い立ちました。
可児に到着すると学生時代に共に演劇を創作したことのある酒井一途とばったり!こんな偶然の出会いがあるのかと思いつつ、久しぶりの再会にお互いの今いる場所について話す良い機会を得ました。
(後々になって、参加者の多くが誰かの知り合いである事が多く、演劇の世界は本当に狭いのだなあとしみじみ思ったりしました。笑)
ワーク初日!まずは衛館長のお話から始まりました。衛館長が口にする“社会包摂”という言葉が強く記憶に残っています。
社会的包摂(しゃかいてきほうせつ)あるいはソーシャル・インクルージョン(英: social inclusion)とは、社会的に弱い立場にある人々をも含め市民ひとりひとり、排除や摩擦、孤独や孤立から援護し、社会(地域社会)の一員として取り込み、支え合う考え方のこと。社会的排除(しゃかいてきはいじょ)の反対の概念である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E5%8C%85%E6%91%82より
弱者と強者の構図が明確になってきている昨今の日本において、芸術が弱者と呼ばれている人を救う事ができるかもしれない。救うという言葉がおこがましければ、社会に何らかの気づきを与える事ができるかもしれない。そんな強い意識を持って劇場運営をなされている方なのだなと改めて感じた一幕でした。
だからこそalaという劇場には人が集まり、市民の方々、alaスタッフの方々の自主性が尊重された“開かれた空間”になっているのだろうと、改めて素晴らしい劇場だなと感じました。
alraの方々とのワークショップは英国から来た演出家志望の面々の主導で進められます。
空間をいかに捉えるか。人との距離感をどう感じるか。自分の身体と他者の身体がどうなっているか。様々な感覚的・主観的、かつ客観的観点からアプローチされるワークの数々。
新国立劇場演劇研修所でやってきたものと本質的には同じものが多く、英国ではどんな演劇学校に通っていようと共通言語が育まれやすい土壌の豊かさ、強さを感じさせられました。
日本で演劇をやっているといわゆる“ベーシック”というものが無く、全く違う土壌の人たちと創作するときにどうしてもそこをすり合わせる時間が必要になってくるのです。その時間を省けるというのは非常に豊かな事であり、今後の日本の演劇界を変えていく上で必要な観点になるのではないかと思いました。
ワーク二日目!他の参加者と前日にみっちりワークをしたことによって、相手がどういう人物で、どういう言葉を使えば話を分かってもらえるのか、そのペースが掴めてきました。
朝の始まりは言葉を使わず、前日のワークで心に残っていることを絵で表現するという時間でした。僕の心に残っていたのは“初日特有のぎこちなさ”、“コミュニケーションを取りにくかった孤独感”などがあり、それを絵にしてる最中に思わず涙が出てきてしまいました。
けどその涙は悲しさの涙とかでは無く、前日のやるせなさが浄化されていくような暖かい涙でした。僕はそういう時間が非常に豊かだと感じます。
3日間のワークを通して、各ワークごとにフィードバックの時間が設けられており、分からなかった事や感じた事を自由に発言して良いという時間が設定されていました。それも演劇研修所では普通のことでしたが、外の現場に出るとそういった時間がなかなか取れずに悪い意味で煮詰まっていくという事象もありました。そういう意味で「Take your time」の重要性と希少性を再確認しました。
二日目のワークショップ終了後、ala及び市民サポーターの皆様のご好意でカレーパーティーが催されました!
カレーパーティーに関しても去年に続いて二度目の参加です!市民の方々がそれぞれ様々なカレーを作ってきたり、おかずを作ってきたり、本当に可児という土地自体から愛を受ける、そんな素敵な時間です!
中には日本文化をalraの方々に感じてもらおうとお抹茶と和菓子を持ってきてくださった市民サポーターの方もいらっしゃいました。
そして去年、僕が可児に訪れたことを覚えていてくださった方もいらっしゃって、本当に嬉しいかぎり、幸せな時間でした!
劇場と市民の方々との関係性を醸成するというのは非常に難しいことだと思います。まず劇場という施設の有用性を分かってもらわねばならない。その上で、劇場に足を運んでもらわねばならない。これだけ協力的な市民サポーターの方々が集まるまでどれほどの努力があったのだろうと考えてしまいます。
ワーク三日目!二日目の後半からワークを日本チームが1人ずつ担当するという時間が設けられ、そのリーダーの言葉と共にワークを進めていきます。
英国チームがalraという学校で教えられているであろう、ある一定の方向性を持ったワークをやってくれたのに対し、我々日本チームは出自の全く違う人たちが集まっているため、それぞれが提案してくれるワークがそれぞれ個性的で、とてもユニークな時間でした。
ただ、アプローチの方向性はバラバラな方角から向かってきているのだけど、本質的な部分・根幹的な部分は「相手どうなってますか?」「自分は今、どこにいますか?」という問いかけの時間であることが多かった気がします。
「相手どうなってますか?」「自分は今、どこにいますか?」という問いかけは非常に重要で、相手をちゃんと見ることで、自分の立ち位置や状況が分かるし、自分の状態をある意味正しく認識し、整えることで、社会における自分という存在の輪郭をはっきりくっきりさせることができるのです。
これって社会で生きていく上で非常に重要なことのような気がしてなりません。
単一化していきがちな現代社会において、自分の個性を許してあげるということ、他者の個性を認めてあげるということ。これは多様性を認めることの根幹であり、豊かさの象徴であり、生活内における幸福感を高める重要な要素であると僕は考えます。
ここに芸術、ないしは演劇、演劇的ワークが社会に価値を寄与していくことができる、必要性を訴えていくことができると思うのです。
三日間のワークを通じて、モチベーションの高い若き演劇人たちと出会うことができ、俳優にとって大事なインプットの時間にもなり、可児の素晴らしい空気を感じることもでき、本当に素晴らしい時間でした。
俳優という仕事を漠然と続けるのではなく、どうしたら社会と繋がって、作品を作っていくことができるのか。その問題意識を持っている方に本当にオススメのプロジェクトです。
むしろ若い演劇人たちの意識が全体としてそのように移行していかなければ、日本の演劇界に向上の目はないよなあとも思ってしまいます。
そして可児市文化創造センターalaにぜひ一度足を運んでみてください!どういう空間なのか、一瞬で感じ取ってもらうことができると思います!
alaの皆さま、alraの皆さま、本当にありがとうございました。
またいつの日か必ず可児に行きますので、待っててくださいね!
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