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Actor×Translator Numero 2

シンガポールに行っても翻訳は続く…

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2017年9月、いよいよ僕の翻訳生活が始まる。作品は「BLUE/ORANGE」。

黒人精神病患者クリストファーが担当研修医のブルースに「Mister Bruce—」と呼びかけるシーンから始まる。

ロンドンで観劇していた分、どんな役者がその言葉を発しているのか、不思議と頭に再生される。

「あれ、意外といける…?」

正直、その段階では翻訳という仕事のキツさに全く気づいていなかった。原本が全114ページ、つまり1日10ページ以上進めば、二週間以内には終わる。そんな皮算用をしていたほどである。

今の自分ならそんな彼にこう言う。

「ナメるな!」

決してナメていたわけではない。でもそんな目論見通りに物事が進むわけがない。当時の僕に立ちはだかった壁は大きく2つある。

①台詞の細かい意図や目的が分からない

この作品をロンドンで見た時には、台詞のやり取りが当然英語で交わされ、役者の表情や語気の強さ、そして端々で耳に入る簡単な単語でシーンの状況を判断し、物語を読み取っていた。

そのために台詞を翻訳して日本語に直していくときに、どのような意図を持って、その言葉が発されているのかわからない瞬間が多々訪れるのである。

意図や目的が分からないまま漠然と先に進めるわけにはいかない。その度にパソコンをタイプする手は止まり、頭を悩ませるのである。

②黒人のスラングが分からない

そう。黒人のスラングが分からないのである。スラングとは日本語で言えば俗語、独自の文化で築かれた言葉であり、辞書には当然載っておらず、ひたすらGoogle先生の力をお借りして調べていくしかない。しかもこの作品に出てくる黒人クリストファーは屈指のスラング使いであり、知らないスラングが出てくるたびに翻訳は止まり、その言葉をひたすらに調べ、調べても出てこない時には、その前後に書かれた英語の台詞を割りかし本気のテンションで読み、そのスラングがどのような文脈で使われているのかをひたすらジャッジしていくのである。ちなみにカフェで一人、黙々とこの作業をしている。変な人である。

こんな人がブツブツ何か言ってたら、僕なら近付かない。

翻訳の時期は朝の10時から夜の8時までカフェに閉じこもって作業をする。つまり10時間。お昼は食べない。トイレにも行かない。基本的に席から立つという行為をしない。本当に迷惑な客である。

そんな日々を過ごして約一ヶ月。ほぼ毎日カフェに通いつめ、朝から晩までパソコンに向き合って、ようやく第一稿が仕上がった。

その一ヶ月のおかげで、今まで飲めなかったコーヒーが飲めるようになってしまった。

そして改めて頭から読み直す。

「最悪だ。なんだこの翻訳は。」

僕の心はボロボロである。自分で納得して翻訳したはずの文章が硬すぎて、人間が話す言葉ではないのである。

そこから再び二週間、カフェにこもって、再翻訳をする日々が続く。ひたすら一人、ひたすら孤独な50日間である。そして僕はある決断をする。

戯曲を読む会の結成

信頼できる役者仲間たちに声をかけ、僕が翻訳した戯曲を読んでもらい、そのフィードバックを活かして、戯曲をブラッシュアップする。

やはり何事も一人の力では成し得ない。

戯曲を読む会の様子

戯曲を読む会を4回積み重ね、その度に戯曲をブラッシュアップして、2017年12月17日「BLUE/ORANGE」の上演台本がついに完成。年を越すことなく、翻訳を終えることができたのである。

追伸
戯曲を読む会のメンバーは随時募集中。アヴァンギャルドHPの「How to use」ページからコンタクト頂けたら嬉しい限りである。
to be continued~

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